同志社大学「連合寄付講座」

2014年度「働くということ-現代の労働組合」

第3回(4/25

「地域で雇用と生活を守る取組み」
~若年者・女性の雇用課題を中心に~

ゲストスピーカー:井尻 雅之 連合大阪 副事務局長

はじめに

 皆さん、こんにちは。連合大阪で政策を担当しております井尻と申します。本日の講義では、地方連合会の地域の取り組みについてご紹介をさせて頂き、皆さんの気づきになればと思っています。よろしくお願いします。

1.雇用・労働の取り組み

(1)地域ミニマム運動

 大阪府域にある300人未満の企業で、働いている人の賃金データを集約し、そのデータから一定の基準を示し、その水準以下の労働者を無くしていこうというのが連合大阪の地域ミニマム運動です。地域での全体の底上げやセーフティーネットを強化するためのものです。
 今年、連合大阪では175組合、約2万人の方々から賃金データを頂きました。その全データを低い方から並べ、データ数を10分割します。そして最も低い値から十分の一である第1十分位の15万8000円を基準にその水準以下で働く人をなくそうと取り組んでいます。全体の賃金の分布を示すことによって、多くの中小労働組合は、労使協議で「社長、当社はとても賃金水準が低いです。大阪の全産業で働く人を10分割して下から1つ目の水準です」と主張、交渉することができます。これを下回っていれば、社長も「こんな低いレベルではいけない。優秀な人材を確保するためにも」ということに繋がると思います。このような地域ミニマム運動を展開していますが、全産業18歳の男女合わせた賃金データでは、131人中8人の方がこの水準に到達していませんでした。
 また、最低賃金の引き上げやセーフティーネットの強化による格差是正については、審議会等で議論し、改正しています。審議会のメンバーは、公益として大学教授や弁護士、労働側、使用者側の公労使三者で構成されています。具体的には、労働市場の各種調査や当該産業の関係労使の意見を聞いたりして、賃金の改正・引き上げについて協議をしています。審議会で一般的にデータとしてみているのは労働者の生計費、労働者の賃金の動向、会社の支払い能力といったデータもみています。
 大阪府の最低賃金は819円ですが、業種別、産業別でもそれぞれ最低賃金を定めています。例えば、塗料製造業では870円と定めています。つまり、そこの産業で働いている人の最低賃金は870円未満では駄目だということです。産業別の最低賃金が定められていない業界で働いている人は819円以上でないと駄目だということです。昨年、最低賃金は19円引き上げられました。これによって最低賃金レベルで働いている17万8000人の賃金の底上げをはかることが出来ました。底上げをはかれれば、正規労働者の賃金も当然連動して上がるため、全体を押し上げることにもつながります。また、詳細な仕組みは省きますが、これらは労働条件の改善と公正競争の確保にも連動するため、企業内で最賃協定を労使で締結していくことが重要となります。

 

(2)若年者雇用の取り組み

 大阪では、これまでに若年者雇用情勢改善に向けて、若年者雇用問題研究会を労使で立ち上げました。若年者雇用は本当に問題なのかとよく言われます。「若いからまだ挽回できるのではないか」という人もいます。「扶養家族もないし、親から援助も受けているのだから、良いではないか」という考え方もあります。だから、「若年者の雇用については、別に大きな問題ではない」と主張される研究者もいます。
 しかし、日本は最初の就職、初職の重要性がとても大きいので、新卒時にうまくいかなければ挽回できないことが多いようです。先行研究では、学校卒業時に不況で失業率が高いと、その後、賃金が低迷し、生涯において賃金格差が生じるという報告もあります。
 学校や企業などにヒアリングをすると、学生のインターンシップはもう形骸化しているといわれます。企業側へのヒアリングでは、「学校との付き合いもあり、良い人材を送ってもらわないといけないのでやっています」ということもありました。しかし、若年雇用問題にとって、インターンシップやトライアル雇用はとても重要だと思います。
 そして、大阪府も橋下知事時代に労使で大阪の若年雇用に関するアンケート調査を一年間かけて行いました。この時の大学へのヒアリングでは、やはりコミュニケーション能力が問題だとの話がありました。携帯電話世代ですので、なかなか対面のコミュニケーションを取ることができないと感じることが多かったと報告されました。また、キャリアセンターにカウンセラーを配置して、個別相談などきめ細やかな対応をしている大学が増えてきています。国では、トライアル雇用奨励金や既卒3年以内を新卒扱いにするなど様々な政策を打ち出していますが、採用に関しては共通して社会人基礎力が重要だということが言えると思っています。

(3)女性就業の取り組み

 女性就業については大阪府と連携をして取り組んでおります。女性の就業問題でよく言われるM字カーブは、特に出産・育児期にあたる30歳代で大きく就業率が落ち込むことです。しかし、大阪は男性の就業率と比べ第1のギャップ、第2のギャップ、第3のギャップともに低い傾向があります。なぜか大阪は昔からどの年齢層でも全国平均を大きく下回っています。様々な取り組みをしているのですが、なかなか原因がはっきりと分かりません。研究報告によれば、大阪は結婚退職をしてそのまま働かない女性が全国で4番目に多く、また、出産・育児を理由にして辞めることも全国平均より高くなっています。既婚女性がもう働かないということですが、そんなに配偶者夫の給料が高いわけでもありません(笑)。
 M字カーブの第1のギャップは、学校卒業時の就業率は男女遜色ないが、その後数年で退職し、女性の就業率が戻らないため発生します。大阪府が行なったインターネット調査によれば、20代の女性は働くことに対して自信をもっていないとの調査結果がでました。この中には高学歴の方もたくさんおられます。こうした状況を踏まえ、私たちが提案しているのは、企業に就職するのはなかなか大変なので、6カ月や1年といった教育訓練も大切ですが、短期間の訓練プログラムでトライアル雇用等をおこなって、雰囲気をつかんでもらうことなど少し背中を押してあげ、再就業するという仕組みが大事ではないかということを申し上げています。国も同様の考え方をもっており、短期間のトライアルの場を作ったりして、女性の就業を増やそうという動きが出てきています。
 第2のギャップには待機児童の問題等があります。この30年、実際に第1子を産んだ後、就業の場から離れると、なかなか戻りにくいことは変わっていないと思います。安倍首相は3年間の育児休業にしたら良いと言っていますが、3年も休んだら戻れないのではないかと私自身は思っています。また、保育所の待機児童数を見ると、保育所等の環境が整っていないので、なかなか働きに行けないというのが現状です。やはり、配偶者の協力がないとなかなか難しいです。ずっと言われ続けていることですが、これまでの日本社会では、どうしても男性を働き手とするモデルであったため、本当の意味でのワーク・ライフ・バランスだとか、仕事と家庭の調和が難しいのが現状となっています。
 第3のギャップでは、高齢になると今度は介護が問題になってきます。誰が面倒を看るのかになると、圧倒的に女性が看ています。そのため会社を辞めてしまうのが現状です。子育ての時期や介護の時期にあたったとしても、様々な制度を使って、やはり社会と繋がっていることが一番大事です。でも、このことに気付くのは辞められた後なのです。当然のことながら環境整備をはかることも大切ですが、簡単に「まぁいいか」と辞めてしまうのではなく、制度を活用しながら就業を続けてもらいたいと思っています。

2.政策実現の取り組み

 政策実現については、連合大阪は「1.雇用・労働・WLB関係」「2.経済・産業・中小関係」「3.福祉・医療・子育て支援関係」「4.教育・人権・行財政改革関係」「5.環境・食料関係」「6.社会インフラ関係(住宅・交通・情報・防災)」を6つの柱とし、それぞれ部会を設けて議論し、大阪府や基礎自治体に提言したりしています。また、連合本部との意見交換や、民主党都道府県連との政策懇談会、府議会議員団との懇談会を通じて、私たちの政策の前進を少しでもはかってもらえるよう取り組んでいます。
 例えば、東日本大震災の瓦礫の受け入れについて、大阪府が躊躇しているようなところがありました。これは大阪でも取り組まないといけないのではないかと知事との懇談会で特別要請を行いました。大阪府には43の基礎自治体があり、各自治体に対しても同じような要請をしました。
 また、紹介のレベルですが、ホームレスの自立支援も行っています。大阪市はとてもホームレスや生活保護受給者が多く、時限立法であったホームレス自立支援法の延長を求める取り組みとして、国会での院内集会の開催や署名活動を行い、厚生労働大臣への要請をしました。また、住居喪失で居住先が無くなった時に生活困窮に陥るので、大阪希望館を立ち上げて、一時的に住居を提供し、福祉から就労につなげる取り組みもしています。
 そして今後、連合大阪では公契約に関する取り組みを強化したいと思っています。市町村から委託・発注された仕事を公契約と言います。安倍首相が第2の矢ということで、公共投資をたくさん行うと言っています。しかし公共投資をしても、そこで働く人の賃金が安ければ好循環には繋がらず、何の意味もありません。今後の重点政策は、公契約の条例化で推薦議員や行政へ働きかけを強化したいと思います。公契約は大体、入札となります。入札は安いところが選ばれますから、悪循環を繰り返すことによって賃金や労働条件は下がるしかありません。賃金を上げると言うのであれば、公契約法や公契約条例等を結んで、一定の賃金・労働条件のあるところに発注しようという仕組みにする必要があります。安かろう・悪かろうといった仕事でなくて、しっかりとした公正な競争の中で中小企業も収益が確保されて、そして労働者への配分がしっかりされるということを定める必要があります。

おわりに:ブラック企業の見極め

 最後にいわゆるブラック企業を見極めるのに何を注意しなければいけないかについて、個人的に思うことを申し上げたいと思います。皆さんの参考になればと思います。
 厚生労働省が法令に違反しているのではないかということで、ブラック企業として、5000社ほどあげました。調査すると8割がブラック企業だったと発表しています。ブラック企業かどうかを見極めるのは非常に難しいと思いますが、例えば、残業代がどのような扱いになっているかということが挙げられます。固定給の中に、残業代も組み込まれているかどうかは聞いたりすると分かります。また、その企業の離職率をみてください。学校への求人については、離職率が今年から明記されるようになります。加えて、例えば、短期間で管理職に昇進できる仕組みで、管理職になれますという謳い文句は危ないと思います。後は勤続年数です。そこの会社の平均勤続年数がどのような状況かをみてください。それから、あまり期待し過ぎたら駄目ですが(笑)、労働組合の有無です。このような観点からブラック企業を見極められるよう自分の眼力をつけることも大事だと思います。こうしたことに注意して、就職活動に取り組んで頂けたらと思います。話が色々と飛びましたが以上とさせて頂きます。

以 上

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