特定最低賃金制度の今日的意義と課題
-福島県における地域別最賃との逆転現象を中心に-
概要
近年、地域別最低賃金の大幅な引き上げにより、特定最低賃金との金額差が縮小あるいは逆転する現象が各地で確認されている。このような状況を受けて、特定最低賃金制度の意義と必要性を改めて問い直す必要がある。特に中小零細企業においては、最低賃金の上昇とエネルギー・資材価格の高騰が重なり、価格転嫁が進まない厳しい現状や人材確保の悪循環といった経営課題が深刻化しており、相対的に高い特定最賃に耐えられないとの声もある。また、地方における人口流出と慢性的な人手不足が進むなか、特定最低賃金の決定過程における労使間の合意形成も一層困難となっている。
一方で、特定最低賃金制度は、地域に根差した産業の技術継承や人材定着を促進する役割を担っており、地方創生の観点から一定の政策的意義を持ち続けている。以上を踏まえ、本稿では最低賃金制度の歴史的変遷と構造を概観しつつ、筆者が審議会委員として関与する県における使用者との実際の議論を取り上げながら、特定最低賃金制度の今日的意義と将来的方向性について多角的に考察する。