この小文では、定期昇給、賃金引上げに対する組合効果を検討してみたい。利用するデータは厚生労働省の『賃金引上げ等の実態に関する調査』である。政府統計の総合窓口で、この調査を探すと「閲覧表」というファイルがあり、そこでは企業規模別労働組合有無別の集計を利用することができる。このデータを活用して、定期昇給の有無、平均定期昇給率、賃金引き上げの有無、平均賃金改定率に対する労働組合の効果を調べることとする。私としては、2024年の2月に「談話室」に掲載した「賃金は下がったのか、変わらないのか、上がったのか」の続きという位置付けにある。
図1は規模計の組合の有無別にみた定期昇給を実施した企業の割合を見たものである。

注)分母は「賃金の改定を行った・行う」「賃金の改定を行わない」「未定である」の合計である。以下の図、すべて同様。
この図から、2010年から2025年の16年間で、組合のある企業で定昇を実施している企業が常に多いこと、その差はだいたい15~20%程度で推移していることがわかる。
次に図2で5,000人以上をみよう。ここでも、組合のある企業で定昇を実施している企業が常に多いことが読みとれるが、ただ、その差は年によって大きく異なり、ほんの3%程度から30%弱までばらついている。

さらに1,000~4,999人を図3でみよう。

ここでも、組合のある企業で定昇を実施している企業が常に多いこと、その差はだいたい10%程度であることがわかる。
図4で300~999人をみよう。組合のある企業で定昇を実施している企業が常に多いことはこれまでと同様である。差は5,000人以上ほどではないが、ばらついており、10%弱から20%まで違いがある。

最後に図5で100~299人規模をみよう。組合のある企業で定昇を実施する企業が常に多いこと、そして、その差は15%程度から20%強までと大きいことがわかる。

以上、規模別に組合の有無別に定昇実施状況をみてきた。発見したことは、この16年間、組合のある企業の方が定昇を実施する企業が常に多いこと、そして組合のない企業との差は規模が小さくなるほど大きくなることである。後者については、組合の有無別の差の平均を取ると、11.3ポイント(5,000人以上)、12.0ポイント(1,000~4,999人)、14.6ポイント(300~999人)、17.0ポイント(100~999人)となることからもわかる。その点を別の角度からみると、組合のある企業では定昇を実施する企業が規模に関わらず毎年8割から9割存在するが、組合のない企業では規模が小さくなると定昇を実施する企業が少なくなることを意味する。
表1は規模別にみた組合の有無別平均定昇率を示す。定期昇給を行い、かつ平均定期昇給率について回答があった企業の数値である。。
| 合計 | 5,000人以上 | 1,000-4,999人 | 300-999人 | 100-299人 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 組合有り | 組合無し | 組合有り | 組合無し | 組合有り | 組合無し | 組合有り | 組合無し | 組合有り | 組合無し | |
| 2010 | 1.6 | 1.4 | 1.6 | 1.5 | 1.6 | 1.4 | 1.6 | 1.3 | 1.5 | 1.5 |
| 2011 | 1.5 | 1.5 | 1.6 | 1.8 | 1.5 | 1.4 | 1.4 | 1.5 | 1.5 | 1.4 |
| 2012 | 1.6 | 1.6 | 1.7 | 1.5 | 1.6 | 1.5 | 1.5 | 1.5 | 1.4 | 1.7 |
| 2013 | 1.6 | 1.8 | 1.6 | 1.7 | 1.7 | 2.1 | 1.4 | 2.0 | 1.8 | 1.5 |
| 2014 | 1.7 | 1.8 | 1.7 | 2.1 | 1.8 | 1.9 | 1.6 | 1.7 | 1.5 | 1.8 |
| 2015 | 1.6 | 1.8 | 1.7 | 2.3 | 1.5 | 1.7 | 1.7 | 1.7 | 1.7 | 1.8 |
| 2016 | 1.7 | 1.9 | 1.7 | 1.8 | 1.6 | 1.7 | 1.9 | 1.9 | 1.6 | 2.0 |
| 2017 | 1.7 | 1.8 | 1.7 | 1.4 | 1.6 | 1.7 | 1.7 | 1.8 | 1.8 | 1.8 |
| 2018 | 1.6 | 1.7 | 1.7 | 1.4 | 1.7 | 1.6 | 1.5 | 1.8 | 1.6 | 1.7 |
| 2019 | 1.6 | 1.9 | 1.6 | 1.9 | 1.6 | 1.9 | 1.5 | 1.8 | 1.5 | 1.9 |
| 2020 | 1.5 | 1.7 | 1.6 | 1.9 | 1.5 | 1.5 | 1.5 | 1.7 | 1.6 | 1.6 |
| 2021 | 1.5 | 1.7 | 1.6 | 1.9 | 1.4 | 1.7 | 1.4 | 1.6 | 1.5 | 1.7 |
| 2022 | 1.7 | 1.8 | 1.8 | 1.8 | 1.5 | 1.6 | 1.8 | 1.9 | 1.5 | 1.8 |
| 2023 | 1.9 | 2.4 | 1.9 | 4.1 | 1.9 | 2.1 | 1.9 | 2.2 | 2.1 | 2.3 |
| 2024 | 2.0 | 2.4 | 1.8 | 1.7 | 1.7 | 2.4 | 2.4 | 2.2 | 2.2 | 2.6 |
注)2025年度の数値は公開されていない。また、2023年度の5,000人以上規模の組合無しの平均定期昇給率4.1%は異常値の可能性が高い。飲食サービス業の組合無しで、定昇率が5.5%と他産業に比べてもはるかに高く、また、同じ飲食サービス業の組合有りでは定昇率が0.9%となっている。この5.5%が組合無しの平均値4.1%に大きな影響を及ぼしているとみられる。
表1からは規模別、組合の有無別に特段の傾向を読み取ることができない。言い換えると、労働組合は定期昇給率に、平均でみる限り、影響を及ぼしているとは考えられない。
調査票から利用できるのはまず「賃金改定を行った企業比率」である。賃金改定には賃金表の改定(ベースアップ、ベースダウン)、定期昇給、諸手当の改定、賃金カットが含まれる。ここでは、賃金改定企業比率からベースダウン実施企業比率を差し引いて、賃金引上げ実施企業比率を算出した。賃金カットは「賃金表等を変えずに、ある一定期間につき、一時的に賃金(基本給、諸手当)を減額することをいう」と定義されているが、通常、カット分は経営状況が改善されると、労働者にカット分は返還されると考えられ、賃金改定企業比率から賃金カット実施企業比率を差し引くことはしなかった。ただ、調査票の設計上、ベースダウン実施企業比率は、「定期昇給制度があり」「定昇とベア等の区別があり」「ベースダウンを行った・行う」企業の比率であり、それ以外の場合の「ベースダウン」は含まれていない。ここでいう賃金引上げとはベースアップと定期昇給の両方、あるいはいずれか一方を実施することを意味する。
図6は規模計の賃金引上げ実施企業比率をみたものである。

ここから2010年から2025年の16年間、組合のある企業の賃金引上げ実施企業が常に多いこと、その差は10%前後であることがわかる。
次に図7で5,000人以上をみよう。組合のある企業で賃金引上げ実施企業が常に多いというわけではなく、2010年、2016年では組合のない企業が上回っている。とはいえ、それ以外では組合のある企業での賃金引上げ実施比率が多い。また、組合のある企業では賃金引き上げを実施する企業が9割以上と一定しているが、組合のない企業では年によって大きくばらついている。

次に図8で1,000~4,999人をみよう。

この規模では16年間、組合のある企業で賃上げ実施企業比率が常に組合のない企業を上回っている。組合のある企業では賃上げ実施企業はだいたい9割以上であり、組合のない企業では8.5割前後である。したがって、その差は5%から10%の間である。 300~999人を図9でみよう。

この規模でも組合のある企業での賃上げ実施企業比率が常に組合のない企業を常に上回っている。組合のある企業では賃上げ実施企業はだいたい9割以上であり、組合のない企業では8.割弱から9割強へとばらつく。したがって、その差も1%から15%までばらつく。

最後に、図10で100~299人規模をみよう。この規模でも組合のある企業での賃上げ実施企業比率が組合のない企業を常に上回っている。組合のある企業では賃上げ実施企業は2010年、2011年を除けば、9割前後かそれ以上であり、組合のない企業では7割から8.割強とばらつく。したがって、その差も5%から15%までばらつく。
以上、規模別に組合の有無別に賃上げ実施状況をみてきた。発見したことは、この16年間、5,000人以上を除くと、組合のある企業の方が賃上げを実施する企業が常に多いこと、5,000人以上では2010年と2016年を除けば同じことがいえることである。また、組合のある企業では、規模に関わらず、9割前後あるいはそれ以上で賃上げが実施されるのに対し組合のない企業では規模にかかわらず、年によってばらつく。したがって組合の有無による差も年によってばらつくことになる。
賃上げ率、正確には賃金改定率は、賃金改定をした(する予定の)企業で賃金改定額が決まっている企業の1人当たり賃金改定率(ベースダウンや賃金カットの場合はマイナス)、賃金改定をしない企業の賃金改定率(つまり0%)の加重平均(常用労働者数を掛け合わせた)である。表2が規模別にみた賃上げ率を示す。
| 合計 | 5,000人以上 | 1,000-4,999人 | 300-999人 | 100-299人 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 組合有り | 組合無し | 組合有り | 組合無し | 組合有り | 組合無し | 組合有り | 組合無し | 組合有り | 組合無し | |
| 2010 | 1.4 | 1.1 | 1.5 | 1.4 | 1.4 | 1.2 | 1.3 | 1.1 | 1.5 | 1.0 |
| 2011 | 1.4 | 1.0 | 1.5 | 1.3 | 1.3 | 1.2 | 1.4 | 1.1 | 1.3 | 0.9 |
| 2012 | 1.4 | 1.4 | 1.5 | 1.3 | 1.4 | 1.3 | 1.5 | 1.3 | 1.1 | 1.4 |
| 2013 | 1.4 | 1.7 | 1.4 | 2.1 | 1.5 | 1.9 | 1.1 | 1.7 | 1.6 | 1.5 |
| 2014 | 1.9 | 1.7 | 1.9 | 1.9 | 2.1 | 2.0 | 1.7 | 1.7 | 1.7 | 1.6 |
| 2015 | 1.9 | 1.8 | 2.2 | 2.2 | 1.9 | 2.2 | 1.8 | 1.8 | 1.6 | 1.6 |
| 2016 | 1.9 | 1.9 | 1.9 | 1.8 | 1.9 | 1.8 | 2.0 | 2.0 | 1.8 | 1.8 |
| 2017 | 2.0 | 1.9 | 2.1 | 1.7 | 1.8 | 1.7 | 2.1 | 2.0 | 2.1 | 1.8 |
| 2018 | 2.0 | 1.9 | 2.2 | 2.0 | 2.0 | 1.8 | 1.7 | 2.1 | 1.8 | 1.9 |
| 2019 | 2.0 | 2.0 | 2.2 | 2.1 | 2.0 | 2.0 | 1.9 | 2.0 | 1.9 | 1.9 |
| 2020 | 1.7 | 1.7 | 1.9 | 2.3 | 1.7 | 1.6 | 1.7 | 1.6 | 1.6 | 1.6 |
| 2021 | 1.6 | 1.6 | 1.6 | 1.8 | 1.7 | 1.7 | 1.6 | 1.6 | 1.6 | 1.6 |
| 2022 | 1.9 | 2.0 | 2.1 | 1.9 | 1.8 | 1.9 | 1.9 | 2.1 | 1.7 | 1.9 |
| 2023 | 3.4 | 3.1 | 3.9 | 4.6 | 3.4 | 2.7 | 3.0 | 3.4 | 3.4 | 2.8 |
| 2024 | 4.5 | 3.6 | 5.0 | 3.2 | 4.3 | 3.7 | 3.9 | 3.7 | 3.9 | 3.6 |
| 2025 | 4.8 | 4.0 | 5.0 | 5.4 | 5.1 | 4.7 | 4.6 | 3.7 | 3.6 | 3.6 |
表2からは規模別、組合の有無別に特段の傾向を読み取ることができない。組合のある企業の賃上げ率が上回っているのは、規模計で9回、5,000人以上で9回、1,000~4,999人で11回、300~999人で7回、100~299人で7回であり、特に多いわけではない。ここでも、定期昇給率と同様に、労働組合は賃上げ率に、平均でみる限り、影響を及ぼしているとは考えられない。
以上の発見から次のことがいえる。定期昇給、賃金引上げのいずれであっても、組合の効果は実施企業を増やすということにありそうだ。組合のある企業では、毎年、8割から9割の企業で定期昇給が実施され、9割前後あるいはそれ以上で賃金引上げが行われ、賃上げの5,000人以上の2年を除けば、16年間、その割合は組合のない企業を常に上回る。組合のない企業では定昇、賃上げのいずれであっても、実施比率は年によってばらつき、とりわけ100~299人規模の企業では実施企業比率が相対的に少なくなる。
他方、平均定期昇給率、平均賃上げ率に関しては、組合効果は特段、読み取ることはできない。もっとも、次の二つの点を考慮する必要があろう。一つは、組合効果が見えないのは脅迫効果を示すのかもしれない。つまり、未組織企業の経営者が組織化を防ぐため、あるいは自社の労働者の士気を保つために、組合と同率の定昇、賃金引き上げを行った結果を示す可能性もある。言い換えると世間相場ができあがるために組合効果がみえなくなる。二つは組合のない企業におけるサンプリングにバイアスがあるのかもしれない。この調査は指定統計調査ではなく、回収率も5割前後なので、組合のない企業(とりわけ定昇、ベアが未実施、あるいは低い企業)の回答率が低いことも想定され、組合のない企業の状況が、実際以上に高く示されている可能性も否定できない。
