学校の先生を「ブラック」と呼ばせないために―部活動の地域移行と、労働組合がつなぐ「地域とはたらく大人の新しい関係」
作成日時:2026年9月7日
一、はじめに
学校の先生は、私たちに勉強を教えてくれる人であると同時に、家に帰れば一人の家族の一員でもある。先生にも、自分の子どもがいたり、大切にしたい家族との時間があったりするはずだ。当たり前のことなのに、私はあまり意識したことがなかった。
けれど、部活動の指導、特に休日の大会引率や練習は、その「当たり前の生活」を少しずつ削っているのではないかと思う。授業の準備や生徒指導だけでも大変なのに、土日まで部活動に時間を取られてしまう先生の長時間労働は、今、社会でも大きな問題になっている。先生も一人の人間で、家族と過ごす時間が必要なはずなのに、それが後回しにされてきたのではないだろうか。
先生が疲れてしまえば、授業の準備にかける時間も減り、生徒と向き合う余裕もなくなってしまうかもしれない。それは結局、私たち生徒にとってもマイナスになる。先生を守ることは、実は私たち自身を守ることにもつながっていると思う。
同時に、この問題は先生だけの話では終わらないとも感じている。地域には、スポーツや音楽の経験を持ちながら、それを子どもたちのために生かす機会がないまま過ごしている大人もいるはずだ。先生の負担を減らすことと、地域の大人にとっての新しい活躍の場をつくることは、実は表裏一体ではないか。そう考えるようになったことも、この提言を書く大きなきっかけになった。
ニュースやインターネットでは、「教員はブラックな仕事だ」という言葉を目にすることがある。正直に言うと、私はこの言葉に少し違和感を覚える。「ブラック」という一言で片づけてしまうと、そこで働く先生一人ひとりの事情や、問題の本当の原因が見えなくなってしまう気がするからだ。大切なのは、先生を「ブラックな職場で働く気の毒な人」として片づけることではなく、なぜそうなってしまうのかを考え、具体的に変えていくことだと思う。だからこの提言のタイトルには、「先生をブラックと呼ばせないために」という思いを込めた。また、終わりでも少し触れるが、先生という仕事は子どもの成長に一番近くで関われる、かけがえのない仕事であるはずだ。
だから私は、部活動のあり方、特に「地域移行」という取り組みの可能性と、そこで労働組合である連合がどんな役割を果たせるのかを考えてみたい。
二、現状の課題
先生の忙しさは、私の印象だけではなく、データにもはっきり表れている。文部科学省が2022年度に行った調査では、中学校の先生(教諭)の平日の在校時間は、平均で11時間01分にのぼるという(注:参考文献①)。始業前から教室に来て、放課後も部活動や翌日の授業準備で残り、気づけば夜になっている。そんな一日を送っている先生が、決して珍しくないということだ。
2016年度の調査と比べると在校時間は約30分短くなっており、少しずつ改善はしているらしい。けれど、それでもなお、いわゆる「過労死ライン」とされる時間外勤務月45時間を超えている先生が、8割以上を占めているという(注:参考文献②)。6年かけて多少は良くなったとはいえ、依然としてほとんどの先生が、安全な働き方の基準を超えて働いていることになる。これでは、「家庭を守る」という事もおろそかになってしまいかねない。
土日の勤務時間の内訳も気になる。中学校の先生が休日に学校で働く時間のうち、部活動・クラブ活動に使う時間は1時間29分にのぼるという(注:参考文献①)。加えて、家に仕事を持ち帰って作業する時間も、平日平均で32分ほどあるそうだ(注:参考文献①)。学校にいる時間だけでなく、家に帰ってからも、先生の一日は完全には終わっていないのだ。
負担が大きいのは、時間の長さだけではない。日本中学校体育連盟の調査によると、運動部に加盟する生徒の数は、この10年でおよそ2割も減っているという(注:参考文献⑤)。少子化で部活動の規模自体は縮小しているのに、先生の負担は減っていない。自分の専門とは違う競技を任され、指導方法を一から勉強しながら顧問を務める先生も多いと聞く。
こうした長時間労働の背景には、教員の給与に関する「給特法」という法律の存在があるとも言われている。(注:参考文献⑩)この法律のもとでは、教員の時間外勤務に対して、一般的な残業代のような支払いがされにくい仕組みになっているそうだ(注:参考文献②)。だからこそ部活動の指導は、先生の善意や責任感に頼る形で積み重なっていってしまう。これでは、先生の負担が増していくばかりである。
ここで私が一番引っかかるのは、「先生の仕事」と「先生の家庭」が、はっきり分けられていないという点だ。会社員であれば、就業時間が終われば仕事は一区切りつき、家庭の時間に切り替わる。少なくとも「ここからは自分の時間だ」という線引きが、制度としては存在する。ところが教員の場合、部活動の指導は正式な時間外労働として扱われにくく、仕事と家庭の境目が曖昧なまま、休日までもが仕事の延長になってしまっている。
これは、先生個人の頑張りに任せていい問題ではないと思う。仕事の時間と家庭の時間は、本来もっとはっきり切り離して考えられるべきである。部活動という仕事の一部を、先生の生活そのものから切り離して、地域という別の場所に移していくことができれば、先生は本来の意味での休日を取り戻せるはずだ。
こうした状況を受けて、国も動き始めている。スポーツ庁は、休日の部活動を学校単位ではなく、地域のクラブ活動として運営していく「地域移行」という方針を打ち出した。令和5年度から段階的に進められており、令和8年度からは新しい改革の実行期間に入るという(注:参考文献③④)。部活動を「学校の先生が担うもの」から「地域全体で支えるもの」へと変えていこうという流れが、すでに始まっているのだ。
ただ、この地域移行には、指導者不足という大きな壁がある。笹川スポーツ財団が2024年に行った全国の自治体調査によると、運動部活動の地域展開・地域移行に実際に取り組みが進んでいる市区町村は、全体の33.0%にとどまる(注:参考文献⑥)。約7割の自治体では、方針は示されていても、まだ具体的な形になっていないということだ。東京都の調査では、外部指導者になることに「関心がある」と答えた人はわずか34%で、関心がない理由として「指導できるレベルではない」(58.1%)に次いで「仕事が忙しい」(28.8%)が挙げられている(注:参考文献⑤)。地域には子どもを教えたい大人が一定数いるのに、「自信のなさ」と「本業の忙しさ」という壁によって、その気持ちが実際の指導につながっていないのだ。
指導者不足に困っているのは地域の大人だけではない。日本スポーツ協会の調査では、休日の部活動が地域移行された場合に「自分自身が指導したい」と答えた教員は、26.1%にとどまったという(注:参考文献⑦)。地域に十分な指導者がいなければ、結局は先生が休日も駆り出され続けることになりかねない。これは、先生の本業である教えることに全力を注げないことにつながってしまうと思う。
つまり、地域移行という方針そのものは正しい方向を向いているのに、「地域で教えたい」大人と、それを必要としている学校とが、うまくつながれていない。この「つながれていない」という状態は、誰か一人の努力不足のせいではなく、双方をつなぐ仕組みが社会に用意されていないことが原因なのだと思う。特に「仕事が忙しい」という理由は、個人の努力だけでは解決しにくい、働き方や制度に関わる課題だと私は思う。だからこそ、はたらく人たちの立場に寄り添ってきた労働組合、とりわけ連合が力を発揮できるではないかと、私は考えている。
三、私の提言――連合が「つなぐ」「創り出す」こと
地域移行がうまく進まない一番の理由は、「地域で教えたい」大人がいるのに、その気持ちが「仕事が忙しい」という壁に阻まれて、実際の指導につながっていない点にある。この壁を崩すには、学校や自治体だけの努力では限界がある。企業で働く一人ひとりの働き方そのものに関わる問題だからだ。私の提言は、大きく分けて二つある。「つなぐ」ことと、「創り出す」ことだ。
【つなぐ】企業と地域をつなぐ「部活動コーチ協定」を、連合が主導してつくる
一つ目の提言は、連合が地域の企業や労働組合に働きかけ、「部活動コーチ協定」とでも呼べる仕組みをつくることだ。連合が地域の教育委員会などと連携して「コーチを必要としている部活動」の情報を集める一方、企業の労働組合を通じて「地域でコーチをしてみたい」と考えている社員を募り、両者を連合が間に立ってマッチングする。
ここで大事なのは、マッチングだけでなく「働く時間」のルールまで一緒に整えることだ。外部指導者に関心があっても難しいと答えた人の理由の多くが「仕事が忙しい」だったことを思い出したい。平日の練習日には定時で退勤できるようにする、大会引率がある日には休暇を柔軟に取得できるようにする、といった配慮を、企業と労働組合が正式に約束する。個人のわがままとしてではなく、会社が認めた制度として、コーチ活動のための時間を確保するのだ。
では、なぜ連合でなければならないのか。連合には、企業と労働者の間に立って労働条件を交渉してきた長年の経験と信頼がある。一つの会社の中の交渉にとどまらず、地域全体、産業全体に働きかけることができるのは、連合だからこそできることだと思う。実際に、厚生労働省が副業・兼業の労働時間管理のあり方を検討する会議には、連合の担当者も参加してきたという(注:参考文献⑨)。すでに「本業以外の時間の使い方」について発言してきた実績があるのだから、その延長線上に、部活動コーチという新しい「地域ではたらく時間」のルールづくりを位置づけることは、決して無理な話ではないはずだ。こうした取り組みは、労働者の生きがいを新しく作ることにつながると思う。
【創り出す】「地域コーチ」という、新しい安心できる働き方を創り出す
二つ目の提言は、地域でコーチをすることを、単なる善意に頼るものではなく、「安心して続けられる仕事」として制度化することだ。
今の日本では、副業・兼業を認める企業が少しずつ増えてきている。厚生労働省も「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を定め、本業を持つ人が別の形で働くことを後押しする方向に動いている(注:参考文献⑧)。ただ、こうした制度の多くはオフィスワークやIT分野を想定したものが中心で、地域社会と直接関わる働き方や試合などで日程が直前に決まる仕事はまだ十分に想定されていないように思う。
そこで連合には、この「地域コーチ」という働き方のための、安心の土台をつくってほしい。コーチ中の怪我や事故に備えた保険制度を、連合が一括して整備すること。報酬の基準をあいまいにせず、時間や責任に見合ったしっかりとしたルールを示すこと。そして、無理のない範囲で続けられるよう、コーチを引き受ける人自身の労働時間もきちんと管理し、本業に支障が出ないよう目を配ること。これらはすべて、労働組合が長年、本業の労働条件について積み重ねてきたノウハウを、そのまま応用できる部分だと思う。
「地域コーチ」という仕事が、単なる「先生の負担の肩代わり」ではなく、地域の大人にとっても「新しい生きがい、新しい仲間との出会い」になっていく。そうなって初めて、この仕組みは一時的なブームで終わらず、長く続いていくものになるのではないかと私は思う。
すでに、こうした「つなぐ」仕組みは各地に生まれ始めている。沖縄県石垣市では、地域全体でスポーツクラブ活動を支える取り組みが進められているという(注:参考文献③)。長野県飯田市・下伊那地域でも、多様な地域人材が指導者として参画するモデル的な取り組みが行われている(注:参考文献⑤)。こうした事例が示しているのは、地域移行は決して机上の空論ではなく、条件さえ整えば実現できるということだ。連合の役割は、こうした先進事例を一つの地域にとどめず、全国の企業や労働組合に広げていくことにある。一つの成功事例を横展開する力を持っているのは、まさに全国組織である連合だからこそだと思う。
四、おわりに
私がこの提言を書こうと思ったきっかけは、「先生も、家に帰れば一人の家族の一員である」という、当たり前だけれど見落とされがちな事実だった。この当たり前を大切にできる社会は、きっと先生だけでなく、そこで働くすべての人にとって優しい社会なのだと思う。
部活動の地域移行は、単に「先生の仕事を誰かに押しつける」ための仕組みであってはならない。先生は本来の生活を取り戻し、地域の大人は「本業」とは違うもう一つの居場所といきがいを得て、私たち生徒はこれまでと同じように、あるいはそれ以上に、豊かな部活動の時間を過ごせる。誰か一人が我慢するのではなく、関わる人みんなにとってプラスになる仕組みを、時間をかけてでもつくっていくべきだと思う。
そのために欠かせないのが、「つなぐ」役割と「創り出す」役割を担える存在だ。学校でも企業でもなく、その間に立って両方の事情を理解できる労働組合、そして全国規模で動ける連合だからこそ、できることがあると私は信じている。先生の働き方を守ることと、地域の大人に新しい働き方の選択肢を用意すること。この二つは、実は一本の糸でつながっている。その糸をつなぐ役目を、連合に担ってほしい。
先生も、地域の大人も、そして私たち生徒も、それぞれの生活と仕事を無理なく両立させながら、互いに支え合っていく。そんな社会こそが、「働くことを軸とする安心社会」であり、子どもにとっても、大人にとっても、本当の意味で安心できる未来なのではないだろうか。
私は将来なりたい職業について考えるとき、正直に言うと、「先生」という選択肢を最初から外して考えていた時期があった。授業も部活も、休む間もなく働き続ける先生の姿を見ていると、「あんなに大変な仕事には就きたくない」と感じてしまうからだ。けれど、それは本当にもったいないことだと思う。先生という仕事は、子どもの成長に一番近くで関われる、かけがえのない仕事のはずだ。それなのに、忙しさや大変さばかりが目立ってしまい、「憧れの職業」として選ばれにくくなっているとしたら、それは社会全体にとっての大きなマイナスではないだろうか。
もし、部活動の指導が地域に移り、先生が本来の授業や生徒との関わりに専念できるようになれば、先生という仕事の本当の魅力が、もっとまっすぐに私たちに伝わるようになると思う。「大変だけど、やりがいのある仕事」ではなく、「大変さも無理のない範囲に収まっていて、その上でやりがいもある仕事」に変わっていくはずだ。そうなったとき初めて、私たちの世代の中からも、「先生になりたい」と胸を張って言える人が、もっと増えていくのではないかと思う。
私はまだ中学生で、働くということの本当の大変さを知っているわけではない。それでも、毎日を共に過ごす先生の忙しい姿を見て、「これは大人になってから考えればいい問題ではない」と感じている。今、目の前で頑張っている先生たちのために、そして将来、地域や社会の一員としてはたらくことになる私たち自身のために、この提言が、ほんの小さなきっかけになればうれしい。先生という仕事が、これからの世代にとって、心から憧れられる仕事であり続けてほしいと、心から願っている。
最後まで、一人の中学生の拙い文章を読んでくださり、ありがとうございました。
参考文献
- ①文部科学省「教員勤務実態調査(令和4年度)の集計(確定値)について」(2024年)
- ②東洋経済オンライン「教員実態調査で再確認「学校の過重労働」、学校・自治体・国はどうすべきか」(2023年)
- ③スポーツ庁「部活動改革ポータルサイト」
- ④スポーツ庁・文化庁「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」(令和4年12月)
- ⑤日本総合研究所 蝦名大智「部活動の地域移行における目指すべき姿と指導者不足の解決に向けた方向性」(2025年)
- ⑥笹川スポーツ財団「スポーツ振興に関する全自治体調査2024」
- ⑦笹川スポーツ財団「学校部活動ありきの地域移行を変えませんか」(日本スポーツ協会調査の引用元)
- ⑧厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
- ⑨厚生労働省「第3回 副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会(議事録)」(平成30年)
- ⑩朝日新聞「給特法とは? 成立の経緯や内容、問題点を専門家がわかりやすく解説」(2023年)
