限られた人が担う労働組合から、誰もが担える労働組合への転換
― 担い手を広げる労働組合役員の働き方構造の再編 ―
作成日時:2026年9月7日
1.はじめに
労働組合は、働く人びとの生活を守り、働きやすさを実現するための組織である。しかし、その担い手である労働組合役員自身の働き方は、必ずしも「働きやすい」ものとなってきたわけではない。
従来、労働組合役員の働き方は、長時間・高拘束を前提とする傾向が強く、活動への強いコミットメントが重視されてきた。その背景には、組合員の生活の維持・向上という使命に対する責任感があり、組合活動はこうした使命感に支えられてきた側面がある。他方で、このような働き方は、役員活動に継続的に関与できる者の条件を一定程度限定してきた可能性もある。
近年、企業社会においては、育児・介護・治療等との両立といったワーク・ライフ・バランスの視点が重視され、個人の生活上の制約を前提とした人事・労務管理の必要性が指摘されている。こうした議論では、従来の人事管理が、時間・勤務地・職務に制約をもたない「無制約社員」を前提に構成されてきたことが指摘され、労働供給制約時代には、その前提自体を見直す必要があると論じられている。にもかかわらず、労働組合役員の働き方については、なお無制約を前提とした運営が自明視されやすく、そのこと自体が十分に問われてこなかった。組合活動の担い手という観点からみると、「無制約で活動できること」を暗黙の前提とする働き方は、潜在的に担い手を限定しうるものではないだろうか。
では、労働組合は、どのような人びとを担い手として想定してきたのだろうか。労働組合が多様な立場にある労働者に寄り添い、その代表としての役割を果たしていくためには、組織運営それ自体の内部に、多様な生活条件や経験に根ざした視点が取り込まれる必要がある。その意味で、多様な人びとが役員活動に参画しうる組織運営のあり方を模索することは、担い手確保の問題であると同時に、労働組合の代表性と持続可能性にも関わる課題ではないだろうか。
こうした問題意識のもとで本稿が注目するのが、電力総連加盟の一労働組合(以下、A労働組合)の事例である。A労働組合では、生活上の制約を抱えながらも専従役員として中心的な役割を担っている状況がみられる。ここで注目すべきは、そのような状況が単なる個別的な配慮によって成立しているのではなく、組織運営の構造そのものの変化によって支えられている可能性がある点である。
本稿では、A労働組合へのインタビューを通じて得られた知見を手がかりに、生活上の制約を抱えながらも役員活動に参画しうる組織運営のあり方を探る。そのうえで、労働組合がいま取り組むべき課題として、担い手を広げる運営への転換を提言する。
2.A労働組合の事例が示すもの
(1)A労働組合の組織概要
A労働組合は、電力総連に加盟する企業別労働組合であり、組合員数は約4000人、組織体制としては、本部・県本部・支部からなる三層構造のもとで組織運営が行われている。A労働組合の専従役員は2年1期で選出され、専従期間中は労働協約に基づき会社を休職し、組合業務に従事する。なお、調査時点では、専従役員は計14名であり、本部9名、県本部6名(うち1名は本部兼任)が配置されている(注1)。
図表1 A労働組合の組織概要(2026年4月時点)

| 配置区分 | 役員区分 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 本部 | 専従役員 | 組織全体の運営、意思決定、全体に関わる課題への対応 |
| 県本部 | 専従役員 | 各支部の統括・指導、県内課題への対応、関係諸団体との連携 |
| 支部 | 非専従役員 | 組合員への日常対応、支部課題への対応、地域における連携 |
(出典)著者作成
(2)働き方の変化の実態
従来、A労働組合における専従役員の働き方もまた、長時間・高拘束を前提としたものであった。夜間や休日の対応、対面参加を基本とする会議や職場対話活動、宿泊を伴う出張などが当然視され、活動にどれだけ時間を投入できるかが、役員としてのコミットメントを測る一つの基準となっていた。そこでは、生活上の制約があったとしても、それは基本的に個人の側で調整すべき事柄とみなされやすく、活動そのものの進め方や役割分担を組み替えるという発想は前面には出にくかった。
これに対し現在では、夜間や休日を当然視するのではなく、平日・日中を中心に活動を組み立てる方向へと移行している。聞き取りからは、こうした時間設定の見直しにより、育児等の生活事情を踏まえながら専従役員として活動することが一定程度可能になっていることがうかがわれた。
また、この変化は、単に活動時間の変更だけにとどまらない。従来のように、特定の個人が常時関与することを当然の前提とするのではなく、状況に応じて関与の度合いに濃淡が生じたり、全面的に参加できない局面が生じたりすることも、一定程度受け入れられるようになっている。すなわち、関与の縮小や部分的な参加を含みながらも、専従役員としての役割を継続しうる働き方へと変化している。
(3)働き方の変容プロセス
A労働組合の専従役員の働き方は、特定の時期に明確な方針転換が行われたことで変わったわけではない。聞き取りからは、専従役員定数の削減、コロナ禍を経た活動手法の変化、ひとり親で子育て中という生活上の制約を抱える者の参画など、複数の契機への対応を通じて段階的に形成されてきたものと理解できる。すなわち、その変化は、「働き方改革」そのものを目的として計画的に導入されたというより、組織がその時々に直面した制約や課題への対応を重ねるなかで、従来の組織運営のあり方が見直され、結果として働き方が徐々に組み替えられていったものと捉えられる。主な契機とその影響を図表2に示す。
図表2 A労働組合の専従役員の働き方に変化をもたらした主な契機と影響
| 時期 | 契機 | 主な変化 | 専従役員の働き方への含意 |
|---|---|---|---|
| 2019年 | 役員数の減少 | 人員制約が顕在化 | 役割固定型の運営の限界が意識される |
| 2020年 | コロナ禍 | 活動手法の多様化 | 日時・方法の柔軟化の可能性が広がる |
| 2022年 | 生活上の制約を抱える役員の参画 | 制約への配慮の必要性が顕在化 | 制約を前提とした運用への移行が始まる |
| 2023年 | Teams・Dropboxの導入 | 情報共有の標準化・可視化 | 属人性の緩和と役割分担の柔軟化が進む |
| 2025年 | MVV再定義プロジェクト(注2) | 組織の目的・価値の再整理 | 活動の優先順位や役割認識・役員像が見直される |
| 2025年 | 活動時間の見直し | 平日・日中中心の運用への移行 | 夜間・休日依存が縮小される |
(出典)インタビュー調査を基に著者作成
こうした変化のなかで、早い段階の転機として確認できるのが、2019年の役員数の減少である。限られた人数で組織運営をしなければならない状況のもとでは、一人ひとりの役員に対してより高い質・量の貢献が求められ、生活上の制約を抱える人の就任や継続を難しくしかねない。しかしA労働組合では、役員個人の努力や献身による対応への収斂はみられなかった。
もっとも、重要なのは、どの契機が最も大きな影響を与えたかを単純に特定することではない。むしろ、こうした契機が相互に連関しながら、専従役員の働き方が段階的に変容していった過程として捉えることである。
(4)従来構造と現在構造の比較
A労働組合における専従役員の働き方の変化は、単なる活動量の増減や会議時間の変更としてではなく、専従役員の活動をどのような前提で成り立たせるのかという調整原理の違いとして理解する必要がある。
従来の構造では、役員が生活事情や時間的制約に直面した場合であっても、個人内で都合をつけて対応することが暗黙の前提となっていた。これに対し、現在の構造では、制約への対応を個人内で完結させるのではなく、相互の調整や補完を通じてチームで役割を遂行する運営がみられるようになっている。
このように、従来の構造は、役員個人の裁量や努力によって制約を吸収する、いわば「個人主体調整型」であった。これに対し、現在の構造は、制約の存在を前提に、役割分担や関与のあり方を相互に調整しながら活動を成立させる「相互調整型」へと変化している。この構造的な違いを図表3のとおり整理する。
図表3 A労働組合における専従役員の運営構造の比較
| 観点 | 従来:個人主体調整型 | 現在:相互調整型 |
|---|---|---|
| 活動時間の基本形 | 夜間・休日も当然視 | 平日・日中が中心 |
| 制約への向き合い方 | 個人内で都合をつけて対応 | 組織全体で役割を調整 |
| 責任の持ち方 | 担当者に集中しやすい | 個人責任を残しつつ支え合う |
| 情報のあり方 | 個人に属しやすい | 共有・可視化を基本とする |
| 貢献の捉え方 | 時間投入が重視されやすい | 役割遂行を重視 |
| 役割遂行の進め方 | 一人で抱え込みやすい | 持ち替え等を含めてチームで遂行 |
| 役員像 | 無制約で働けることを前提 | 多様な条件のもとでも担いうる |
(出典)インタビュー調査を基に著者作成
(5)相互調整型の実態と成立メカニズム
① 相互調整型を支える組織運営の仕組み
こうした相互調整型の構造は、具体的にどのように成り立っているのか。
聞き取りからは、生活上の制約を抱える人を活動から外したり、一方的な配慮の対象としたりするのではなく、役割の持ち替えや補完を前提に、活動と生活の両立を可能にする調整が行われていることがうかがわれた。たとえば、全面的な参加が難しい場合でも、Web参加を組み合わせる、事前準備や事後対応の役割を担う、他の役員が一時的に代替するといった形で、関与のあり方に幅を持たせながら役割遂行が支えられている。
その際に重要なのは、「支える側」と「支えられる側」が固定されていないことである。子育てや介護、治療などの事情は、その内容や程度こそ異なるものの、複数の役員が抱えている。また、そうした事情に限らず、個々人の生活上の都合や時間の使い方も、それぞれに異なっている。そうしたなかで、生活上の制約を抱える役員もまた、対応可能な範囲では他の役員の業務都合や負担を補完する側に回っており、役割のやり取りは一方向ではない。個々人の生活事情は、活動からの免除の根拠としてではなく、役割の再構成や再配分を考える前提のひとつとして扱われていた。
こうした調整を可能にしている背景には、情報共有の可視化と役割分担の柔軟化がある。TeamsやDropbox等を通じて、誰が何を担い、どこまで進んでいるのかを組織として共有しやすくなったことにより、特定の個人に依存しない補完や持ち替えが可能になっている。
② 相互調整型を支える役員像の捉え直し
さらに、A労働組合における相互調整型の運営を支えている要因のひとつに、役員像そのものの捉え直しがある。聞き取りからは、こうした運営の見直しを進めた中心的な役員自身も生活上の制約を抱えており、その視点が組織運営の見直しにも反映されていたことがうかがわれた。こうした制約を抱える立場からの視点は、役員像そのものの捉え直しにも表れており、その捉え直しは、ミッション・ビジョン・バリューの再定義プロジェクトにおいて明確に言語化された。
同プロジェクトでは、新中期ビジョン「“らしさ”をつなぎ、ミライをデザインする」が掲げられ、違いを排除の根拠とするのではなく、多様な“らしさ”が交わることによって未来を広げていくという方向性が示された。三役のひとりからは、同プロジェクトの論点に触れながら、かつては「金太郎あめ」のように、24時間365日対応できる役員を前提とした運営が志向されていたかもしれないが、多様さを大切にするのであれば、画一的な役員像ではなく、それぞれの違いを前提に柔軟に役割を組み替えながら運営していく必要があるとの認識が語られた。
以上から、A労働組合における相互調整型の運営は、情報共有や柔軟な役割分担といった組織運営の仕組みと、それを支える役員像の捉え直しが相まって成立していると理解できる。
(6)A労働組合の限界と課題
もっとも、A労働組合における相互調整型の運営は、あらゆる場面に同じように適用できるわけではない。内部の会議運営や日常的な役割分担においては、制約を前提とした柔軟な調整が可能になっている。他方で、外部組織や上部団体が主催する会議や研修については、A労働組合側は開催主体ではなく参加者として関与するため、日程や形式を内部都合で動かしにくく、相互調整型の運営がそのままの形では及びにくい。とくに、対面での関係構築や担当者本人の参加が事実上前提とされる場面では、なお本人側の調整に頼らざるをえない側面が残っている。
また、こうした柔軟な運営は、生活上の制約を抱える人びとの参画や、突発的な欠員・日程変更への対応を可能にする一方で、運営上の新たな課題も生じさせている。基本的な役割分担は設けられているものの、それに固定されることなく、担える範囲に応じて相互に調整されるため、誰がどこまで担うのかという基準は必ずしも明示的ではない。調整の起点も、なお本人が自らの制約を申し出ることに委ねられているため、申し出にくさや、他者に任せることへの負い目がある場合には、個人の側で無理を抱え込む余地も残る。
加えて、補完する側にかかる負担の偏りや、関与の仕方が柔軟になるなかで従来のOJT的な学習機能がどのように維持されているのかといった点も、現段階では十分に可視化されていない。
こうして見ると、A労働組合の取り組みは、担い手を広げうる運営の可能性を示す具体的な事例である一方で、それ自体を完成されたかたちとして位置づけられるものではない。A労働組合自身も、現状の組織運営のあり方を完成形とは捉えていない。相互調整型の運営を、いかに持続可能で継承可能なものとして支えていくのかという課題については、今後も模索が続くことが期待される。
3.提言
本稿は、A労働組合の事例を成功例として他の組織にそのまま踏襲することを提言するものではない。
ここで受け止めるべきなのは、事例の内容そのものではなく、事例が浮かび上がらせた論点である。すなわち、無制約に対応できることを暗黙の前提としてきた運営のもとで、担い手が一部の人びとに限られてきたという現状を、個別的な配慮の積み重ねによって補うのではなく、制約を抱える人びとを含めた担い手のあり方と、それを支える組織運営のあり方そのものを組み替えていけるかを問う必要がある。
本稿が提起するのは、共通の運営手法ではなく、それぞれの組織が自らの運営の前提を問い直すための視点である。
また、ここで取り上げたのはA労働組合の専従役員の事例であるが、本稿が提起する内容は、特定の組織や専従役員に閉じるものではない。それぞれの組織が置かれた条件や課題に応じて、自らの運営のあり方を検討していくことが求められる。
以下では、そのための論点を提言として整理したい。
(1)労働組合の「こうあるべき」を問い直す
まず見直されるべきなのは、労働組合の役員活動を支えてきた固定的な役割分担や、過去からの慣習のなかで形づくられてきた「組合役員はこうあるべき」「労働組合はこうあるべき」という前提である。長時間対応、即応性、対面参加、最後まで一人で担い切るといった無制約を前提とした関わり方が暗黙の標準として維持されるかぎり、生活上の制約を抱える人びとは担い手になりにくい。その結果、狭められるのは、役員活動に参画できる者の範囲だけではない。組織運営の内部に取り込まれる視点や経験もまた、限られたものになりやすい。
問題は、こうした前提が、時代や状況の変化にもかかわらず、十分に問い直されないまま当然のものとして受け止められてきたことにある。
必要なのは、「こうあるべき」という発想そのものが、いまの時代においてなお妥当なのか、見直しの余地はないのかを問い返していくことである。そうした前提を当然視したままでは、担い手の可能性を閉ざし、労働組合は時代の変化や担い手の多様化に応じて自らを組み替えていくことができない。いま求められているのは、「こうあるべき」という前提にとらわれることなく、多様な人びとが担い手となりうる組織のあり方を模索していくことである。
(2)誰もが担い手となる組織運営へ
担い手を広げるうえで重要なのは、生活上の制約の有無によって人を分けるのではなく、労働組合が果たすべき役割に対し、誰がどのような役割や貢献を担いうるのかを基準に運営を組み立てることである。
個々人の事情や条件は、白か黒かで分けられるものではなく、程度や組み合わせの異なるグラデーションとして存在している。だからこそ、特定の人を一方的に「支えられる側」として位置づけるのではなく、誰もが最初から担い手であるという前提に立つことが求められる。
その意味で必要なのは、個別的な対応を後から付け足していくことではなく、多様な条件をもつ人びとが、それぞれの条件のもとで役割や貢献を担いうるように、運営の仕組みそのものを組み替えていくことである。
個別的な配慮を積み重ねるだけでは、支える側と支えられる側という関係を固定化し、制約を抱える人びとも組織をともに支える担い手であるという視点を見失いかねない。
重要なのは、「できないこと」を基準に担い手を狭めることではなく、それぞれの「できること」を持ち寄りながら組織を成り立たせるという発想への転換である。そのためには、制約がない人びとだけで参画のあり方を考えるのではなく、制約を抱える人びともまた担い手として運営の検討に加わり、ともに何ができるのかを考えていくことが欠かせない。
さらに重要なのは、こうした姿勢が、生活上の制約を抱える人びとの参画を支えることにとどまらないという点である。多様な立場や条件にある人びとが、それぞれの条件のもとで担い手として運営に参画し、ともに何ができるのかを考えることは、組織運営の内部に生活者としての視点を取り込み、職場の実情に即した課題設定や要求形成につなげていくことでもある。
担い手の幅を広げることは、特定の人びとに参加の余地を与えることではなく、多様な人びとがそれぞれの条件のもとで役割を担いうるようにしながら、労働組合の取り組みを、より多様な実感や視点に開いていくことにほかならない。
(3)運営の土台を組み替える
誰もが担い手となる組織運営を実現するためには、考え方や姿勢を見直すだけでは足りない。実際に役員活動を支えている運営の土台そのものを、多様な人びとが役割を担いうるように組み替えていく必要がある。とりわけ見直されるべきなのは、情報共有のあり方、役割分担の組み方、活動日程の立て方、会議参加の方法など、日々の運営実務に関わる部分である。ここが従来のままであれば、多様な人びとがそれぞれの条件のもとで役割を担いうるような組織運営も、実際には機能しにくい。
誰が何を担い、どこまで進んでいるのかを、特定の個人の頭の中や手元に閉じ込めるのではなく、組織として共有可能な状態にしておくことには大きな意味がある。情報が標準化され、可視化されていれば、役割の持ち替えや補完も行いやすくなり、一人に依存した運営から離れやすくなる。これは、生活上の制約を抱える人びとの参画を支えるだけでなく、突発的な欠員や業務の偏りにも対応しやすい、機動的で持続可能な組織運営にもつながる。
また、活動日程や参加方法についても、無制約で動けることを暗黙の前提とした設計を見直す必要がある。夜間や休日、対面参加を当然視するのではなく、平日・日中を基本とした日程設定や、Web参加、事前準備・事後対応を含めた多様な関与のあり方を運営のなかに位置づけていくことが求められる。
重要なのは、全面的に参加できることだけを役割遂行の基準にするのではなく、関与の仕方に幅を持たせながら、全体として活動を成立させることである。
もっとも、こうした仕組みは、導入しただけでそのまま機能するものではない。情報を共有することや役割を抱え込まないこと、新しい方法を受け入れることが組織に根付くよう、意識や文化を育んでいくことではじめて意味をもつ。だからこそ必要なのは、従来のやり方にこだわるのではなく、多様な人びとが実際に参画しうる運営の土台そのものを、組織として更新していくことである。
(4)担い手を広げる見直しは産別・連合にも問われる
担い手を広げうる運営への転換は、個々の単組の工夫だけで完結する課題ではない。単組の内部で活動時間や役割分担、情報共有、参加方法の見直しが進んだとしても、産別や連合の会議、研修、意思決定の場が、なお無制約に対応できる人びとを暗黙の標準として設計されているとすれば、産別や連合への参画は引き続き限られた人びとに偏りやすく、単組での担い手拡大も組織全体には及びにくい。したがって、この課題は、単組に閉じた運営上の問題としてではなく、労働組合運動全体の組織運営のあり方に関わる課題として捉えられなければならない。
これまでも、単組・産別・連合において、ジェンダー平等や多様性の実現に向けた取り組みは進められてきた。だからこそ今後は、そうした取り組みが組織運営の前提そのものを問い直すところまで及んでいるかを検証していく必要がある。その意味で、産別・連合のいずれにおいても、自らの会議、研修、情報伝達、意思決定のあり方が、なお「制約がない人」を暗黙の標準として設計されていないかを検証する必要がある。
そのうえで、産別・連合には、それぞれの立場から加盟組織と問題意識を共有し、多様な人びとが担い手となりうる組織運営の方向性を示すとともに、その実現に向けた見直しを支えていく役割がある。
とりわけ、産別や連合の会議や議論の場そのものに多様な立場の人びとが参画していなければ、職場や社会の変化に即した課題認識や要求形成も十分には生まれにくい。多様な人びとが担い手として関わりうる環境を整えていくことは、単に参加機会の公平性を確保するためだけではなく、労働組合が多様な労働者の実感に根ざしながら、その代表性を保ち続けるためにも必要である。
4.おわりに
労働組合は、働く人びとの生活を守り、より働きやすい職場や社会を実現していくための組織である。だとすれば、その担い手である役員の働き方や、役員活動を支える組織運営のあり方についてもまた、同じ問いにさらされなければならない。
その意味で、本稿における課題は、単に生活上の制約を抱える人びとへの配慮を制度的に整えるという防衛的な課題にとどまるものではない。多様な立場にある労働者に寄り添う組織であるためには、組織運営それ自体の内部に、多様な生活条件や経験に根ざした視点が取り込まれていく必要がある。言い換えれば、担い手を広げることは、生活者としての視点を組織運営の内部に取り込み、労働組合が多様な組合員の実感に根ざして課題を捉え、要求を形づくるための条件でもある。
本稿を通じて示されたのは、限られた人が担うことを前提とした組織運営から、誰もがそれぞれの条件のもとで担い手となりうる組織運営へと転換していくことの必要性であった。こうした転換は、担い手確保のための一時的な工夫というよりも、どのような人びとが担い手となりうるのかを問い直すことを通じて、労働組合の代表性と持続可能性を支える前向きな組織再編として位置づけられるべきではないか。
いま求められているのは、限られた人が担うことを前提とした組織運営にとどまることなく、それぞれの組織が置かれた条件や課題に応じて、自らの運営の前提を問い直し、多様な人びとが担い手となりうる労働組合へと歩みを進めていくことである。本稿が、労働組合の運営の前提を改めて問い直し、担い手を広げる議論を深めていくための一つの手がかりとなれば幸いである。
注
- 注1:A労働組合では専従役員の一部に、関係団体等へ派遣される者が存在するが、本稿では労働組合の運営を担う専従役員の働き方を調査対象とするため、詳細な検討は行わない。
- 注2:MVV再定義プロジェクトとは、組織としてのMission, Vision, Valueの再定義を行う取り組みである。
《参考文献》※五十音順
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https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2010/06/pdf/020-031.pdf - 今野浩一郎「労働供給制約時代の人事管理」『日本労働研究雑誌』No.674、2016年9月、16-25頁
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2016/09/pdf/016-025.pdf - 今野浩一郎「総合職の制約社員化と人事管理」『日本労働研究雑誌』No.689、2017年12月、40-50頁
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2017/12/pdf/040-050.pdf - 厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(平成31年3月改訂版)」『Business Labor Trend』2019年6月号、34-41頁
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https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2006/08/pdf/019-033.pdf - 矢島洋子「仕事と介護における『両立の形』と『企業に求められる両立支援』」『日本労働研究雑誌』No.658、2015年5月、47-65頁
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2015/05/pdf/047-065.pdf
